一段、一段と階段を下りる度にだんだんと強くなっていく雨の音…この雨から私を濡れないように守ってくれる物は鞄をひっくり返して捜してみたが見つかることはなく、だからといって雨がやむ気配は一向に感じない。階段をおりきった先から見える雨に思わずため息が漏れる…これでもかというほどに強く地面をたたきつける雨はそこでとどまることなく排水のためにある溝を溢れかえらせていた。




少し出口に近付けば、風によって煽られた雨粒がしぶきとなって、体よりも前に出ていた腕を濡らす。その冷たさに思わず出していた手を引っ込めたが、この雨なら傘をさしていたとしても濡れるのはきっと同じだと、自分に言い聞かせるように思い直して、この雨の中へと一歩踏み出そうとした途端に






「ねぇ、君。」






そう後ろから声をかけられた。せっかく決心がついたというのに、その決意を邪魔するのは誰だと半分不機嫌になりながら振り返る。




振り返って真っ先に目に入ったのは、ぴょんっと自由に飛び出た赤色のアホ髪…そしてその次にまるでルビーのように輝く瞳… 思わずその瞳に見つめられて、不覚にも固まってしまった…正確に言うならば不機嫌になっていたことなど忘れてしまうほど綺麗な瞳に見とれてしまったのだ。




だが私がじっと彼を見ていたのが彼にとっては気に入らなかったのか、明らかに不機嫌ですとでもいうように眉間に深い皺が寄っていく。






「みんなと瞳の色が違うからってそんなに僕のことが気になる?」






敵意むき出し、そんな言葉が合う口調で彼は淡々と言い放った。そっちが声掛けてきたくせになによ。と彼の態度に私も少し腹が立って負けじと言い返す。






「そうよ! 綺麗だから見とれていたのよ、悪い?」
「え…?」






彼はまるで私の言葉など予想していなかったとでもいうように、さっきの私よろしく固まってしまった。 本当になんのために私に声をかけてきたのよと思いながら、ここにずっといてもその答えは見つかりそうもないと雨が降りそそぐ外の方へと向き合って今度こそ飛び出そうとすれば、今度は後ろから腕を掴まれる






「待って!!」
「まだ何か私に用事?」






振り返らなくても私の手を掴んだ人なんて、さっきの彼以外いないだろうと振り返りもせずに答えれば、手のひらにぎゅっと何かを掴まされて、驚いて振り向こうとした瞬間に、耳に熱い吐息がかかる。一気に頬に集まってくる熱とは真逆に振り向こうとしていた勢いはそのくすぐったさに消えてしまった…






「この雨じゃ意味ないかもしれないけどこれ使って。ないよりはマシだから。」
「え、ちょ、ちょっと…!」






彼はそれだけ私の耳元のすぐ後ろで呟いたかと思うと、私の目線の先にある豪雨のなかへ傘もささずに走っていってしまった。思わず呼びとめようと差し出した手は宙を掴むかわりに少し大きな傘を掴んでいた。






「こ、これ…。」






もしかしなくても彼のものだと思いながら、思わず彼が走っていった方向へと視線を向ける。さっきはあんなに怒ってたのに、良く分からない人だと思いながらも不器用な優しさを受けて少し緩るんでいく頬を隠すことはできなかった。






「ありがとう!!!!」






彼が消えて行った方向に向かってこれでもかって大きな声で叫びながら、受け取ったばっかりの傘を手にして、静かにトクンと高鳴った胸の鼓動を感じながら私も豪雨の中へと飛び出していった。













に落ちる







       瞬間があるとしたら








(もし、そんな瞬間があるとするのならば、きっと今がその瞬間なのかもしれない…)



















(20130905)希咲

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