※ネタバレ注意(Refrainプレイ済み推奨)










世界から隔離されたかのような静けさに満ちた月曜日の放課後の図書室。その中でひとり、図書委員という与えられた役割を私は全うしていた。全うしていると言っても実際は大したことはしていない、この空間に入る時に鍵を開け、去る時に戸締りさえすれば好きな本を好きなだけ読んでいるだけでいいのだから。丁度教室が並ぶ校舎や寮とは正反対の場所に位置された図書室には滅多にといっても過言ではない程に人が寄り付かない。






ふと窓の外に視線を向ければ、眩しい程に赤みを増した太陽が沈みかけるところだった。その眩しさに一瞬瞼をきつく閉じた背後で扉が開く音がかすかに聞こえる。丁度そろそろ閉めようか。なんて考えていたところだったので、なんてタイミングの悪い人だと思ったが、人が来た以上追い出すのも忍びなく、手に持っていた読み終えた本を元の位置に戻しながら新しい本を探そうかと本棚に並んだ本へと目を走らせる






この本は前に読んだ本…このジャンルには興味ない…などと視線を上へ上へと移していくうちに一冊の本に目がとまる。基本的に一度読んだ本を忘れることは無いのだが、読んだはずの無いその本にひどく見覚えがあるような気がした。不思議に思ってその本に手を伸ばすが、届きそうで届かない… 仕方なく背伸びをすれば手の先が本の下の部分に微かに触れる… もう少しと更に体を上へと伸ばしたところで後ろから私じゃない手が伸びてくる。






「この本か?」
「へ? あ、うわっ……!」






急にかかった声にびっくりして、体勢が崩れる。もともと背伸びという不安定な格好をしていたためか、崩れた体勢を正すことはできずに、無残にも後ろへと倒れてしまう…そして後ろにいる人にもたれかかるような形で受け止められる。すぐに体勢を立て直し、謝ろうと振り向いた瞬間に頭にチクリと小さな痛みが走った。






前にもこんなことあったような気がする…根拠といえるものなどどこにもないが、私は振り向く瞬間に何故かそう感じて、完全に振り向く前に勝手に口が動いていた。






「恭介……」
「…っ!」






振り向いてそこに立っていたのは、今まさに私が名前を告げた人物で、私の言葉に驚いたかのように目を見開かせていた。あぁ…やっぱり。彼の顔を見た瞬間に不完全だった私の記憶がパズルのピースがはまっていくかのように再構築されていく。彼とは間違いなく前にここで今と同じ出会い方をした。それから… それからどうなったんだっけ… 必死で記憶を引っ張り出そうとするけれど、それ以上のことは何も思い出せない。






「前にもここで…」






そう言いかけたところで、私の目から涙が流れていることに気付く…自分でもどうして泣いているのか分からないが、今彼と出会えたことがとても懐かしく、まるでそれが奇跡のように感じられた。止まらない涙を拭うよりも先に、腕を引かれ目の前の人物の胸の中におさめられる。






「好きだった人が、ここにいたんだ。そいつは今みたいに高いところの本を台を使わずに取ろうとして俺の方に倒れてきた。それから慌てて照れたように俺に謝りたおした後…」
「あなたを置いて図書室を飛び出していった。」






彼の言葉で無くしていたピースがまた集まってつながっていく…そうだ私はここで彼に出会ってそこで…そうそこで…






「それから何度もここに訪れるあなたに私は恋をした…」
「あぁ…」
「おかえり、恭介。」
「随分またせちまったが…ただいま、。」






抱きしめられていた腕にぐっと力が入るのが分かって、私も彼の背中に腕を回して力いっぱいに彼を抱きしめ返す。そうすればさっきまで思い出せなかったのが嘘みたいに彼との思い出が次々と思い出される。どうして私はこんなにも大切な人を今まで忘れていたんだろう…もう二度と忘れないようにともう一度腕に力を込めてから、彼の名を呼ぶ。






「恭介。」
「前よりも甘えん坊になったのか?」






言葉ではそういいながらも、ご満悦といった表情で私の頭をくしゃくしゃと撫でまわすとだんだんと縮まっていく恭介と私との距離… それを感じて瞼を閉じれば唇に柔らかい感触。それから微かに耳元で告げられた言葉に頬が緩んでいくのが分かった。












“今も昔も変わらず、お前が好きだ。”





















(今度こそ絶対に夢なんかではおわりにさせてやらない。)












(20131119) 希咲 #memoにちょっとしたこのお話の解説を用意してあります。
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