今夜は鬼柳のところへ泊まってくると何故かそう言って、クロウとジャックが出ていってから数時間…残された私と遊星の間にはいまだに会話一つない。だが端から見れば気まずいであろうこの空間は、私にとっては気まずいどころか、むしろ幸せでしかない。




機械を弄っているのが好きな遊星、いつもは無表情な彼だけれど、機械を弄っている時はいつも、幸せそうで、そんな彼をずっと見つめていられるこの時間はとても好きだ。それに今日は騒がしい二人がいないとなれば、こんなに素晴らしい時間はない。




それから更に数時間経って日が傾きかけた頃、遊星が作業する手を止めて、工具を床に置くと、額に溜まっていた汗を拭いながら立ち上がった。すぐさま、こんな時の為にと用意していたタオルを持って遊星の元へ駆け寄る。





「終わったの?」
「いや、まだだ。だが、はそろそろ夕飯の買い物に行くだろ?」
「え、うん、そうだけど…」
「キリのいいとこまで終わったんだ、買い物に行くなら俺も付き合う。」





そう言って投げ渡されたヘルメット、急なことに遅れてしまった反応を取り戻すように慌てて、ヘルメットを抱え込むようにして受けとれば、ふわりと小さく遊星が微笑む。その笑顔だけでも十分な威力だと言うのに、そのあとに小さく、





「可愛いな。」





なんて言うものだから、顔が熱くなって仕方ない…それを誤魔化す為に、さっき受け取ったヘルメットを慌ててかぶって、遊星のディーホイールの後ろに腰掛ける。




それに続いて遊星もヘルメットを被り、ディーホイールに乗り込むと、いつもの買い物先へと向かい出した。




遊星の後ろで、落っこちないようにと、必死で遊星の腰に掴まっていた時、ヘルメットの中に入りきらなかったであろう遊星の髪が風にゆらゆらと揺れていた。




いつもの蟹のような髪型を見る限り、自然と遊星の髪はすごく固くて、痛そうだと想像できてしまった私は、できるだけ当たらないようにしようするが、


そんなことを考えている間に目的地へと到着していたらしいディーホイールが、遊星の踏んだブレーキで急に止まり、その反動で私は、先程痛そうだと判断した髪に頬っぺたから直撃した。




思わず痛みを予想して、思いっきり目を瞑ったが、想像していた痛みはなく、それどころか、頬っぺたに何故か、やわらかい感覚があった…


まさか、と思って、腰に回していた手をほどいて、遊星の髪に触れようとしたとき、遊星がヘルメットを脱ぎながら立ち上がって、中途半端に伸ばされた私の手を見て不思議そうに私を見つめる。


その視線に私は慌てて、腕を引っ込めて、笑って誤魔化し、ヘルメットを脱いで早足で店へと入るが、頭の中は遊星の髪のことでいっぱいだった。




あの髪の毛は本当は固くなくて、柔らかいのでは…などと、遊星の髪に対する疑問は収まらず、買い物中もそんなことばかり考えていると、気づかない間に買い物は終えていて、気づけば家に戻っていた。





?」
「え、あぁ、遊星…買い物付き合ってくれてありがとう。」





遊星の名前を呼ぶ声で我に帰った私は慌てて、買ってきたものを冷蔵庫へとしまう、上の空で買ったものとはいえ、買おうとしていたものはすべてもれなく買っていた。





「………」
「どうしたの、遊星…?」





再び呼ばれた名前に後ろを振り向けばすぐそばに遊星がいて、少しびっくりする。





「なにか気にさわることでもしたなら言ってくれ…」
「え、…なんで、」
「買い物中一度も話してくれなかったから…」
「あ、いや、遊星はなにも悪くないの!」





すっかり、落ち込んだような表情を見せる遊星に、慌てて否定するも、あなたの髪の毛のこと考えてました。などとは言えるはずもなく必死で取り繕う。





「でも、今日のは少し変じゃないか?」
「え、いや、だからそんなことは…「………は、ジャックがいないから寂しいのか?」





私の言葉にいきなり被せるようにジャックの名前が出されたことに単純に私は驚く





「え、なんでジャックが出てくるの…?」
はジャックが好きなんじゃ…」





そういわれて、少し胸が痛む…ずっと遊星を見てきたと言うのに、遊星は、私がジャックを好きだと思っていたなんて……なんだか、それがすごく悔しくて、頭のなかがぐちゃぐちゃになっていくのがわかる。だけど、黙っているだけじゃなにも伝わらない、そう思って何か言わなければと私は遊星の目をしっかり見て口を開く





「ゆ、遊星、一緒にお風呂入ろう!!」





言ってしまってから、自分の言った言葉の意味を理解して、自分の言葉に顔に熱が上る…いくら頭がごちゃごちゃしていたからと言って何をいってるんだと一先ず必死で否定を繰り返す





「え、あ、いやっ、遊星これは、えと違うくて、その…」
「…………」





案の定、遊星もポカンとした表情で私を見つめている…と思ったのも束の間、いきなり、遊星の顔が近づいてきたかと思うと、遊星の唇が私の唇に重なる…


今度は私がポカンと遊星を見つめる番だったが、それでもお構いなしと言うように。





「それは誘っているんだな?」





そう言って、遊星が不敵に笑って再び私の唇にキスを落とす。













あなたのを洗いたい








(ただ私は髪にさわりたいだけだったのに…何故か人生最大の貞操の危機!?)
(早く風呂に行くぞ。)(………はい。)



















(20130220)希咲

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