テーブルの上に並べられた一人分の夕食。それを私は淡々と口へ運び咀嚼する。静まりかえった部屋でひびく音は、食器と箸がぶつかる小さな音だけ。いつも向かい側で一緒に夕飯を食べている鬼柳は、今日はいない。飲み会で遅くなるから夕飯は要らないと、朝そう言ってでかけたきり。



独り暮らしをしていた頃は当たり前だった一人の夕食も、今では少し寂しさを覚えてしまう。というのも前に住んでいたマンションが、急に取り壊しとなり引っ越しを余儀なくされたのだが、家賃の関係的に丁度いい物件が見つからず、困っていたところに、新しい物件が見つかるまで俺のところに来いという半ば強制的な鬼柳の一言から、一緒に住むようになって今に至る。



最初は色々と抵抗があったはずなのに、今ではすっかり馴染んでしまっている自分に苦笑いをこぼしながら、食べ終わった食器を簡単に片付けたあと静けさを紛らすために、特に意味もなくテレビをつけた。



途端に大きな音がテレビから聞こえてきて、慌てて音量を下げようと視線を少し落とした時、テレビの横に張ってある紙が視界に入る。そこには、ここに住むと決まった日に二人で決めた、ルールがいくつか書かれてあって、最後に大きく“スキンシップ禁止”と書かれてある。


鬼柳のことだから下心があって私をここに呼んだのではないのかと最初、少し疑っていた私が提案したものだ。


だがここに来て数ヵ月経つが一度として、鬼柳が私に触れることはなく、自分で提案したくせに、改めてそのことについて考えてみると少し寂しさのような感情が芽生えかけて、慌てて考えるのをやめた。



と、丁度その時玄関の方で扉を叩く音がして、いつもの癖でチェーンをつけたままにしておいたことを思い出して慌てて玄関に駆け寄る




「おーい、ー?」
「はいはい、今開けるよ」




そう言ってチェーンを外してドアを開けると、同時に鬼柳が
私の方へと倒れこんできた。




「へ、? ちょ、ちょっと…!?」




私の間抜けな叫びもむなしく、急に倒れこんできた鬼柳を私が支え切れる筈もなく、そのまま背中から床に倒れ込んだ。丁度背中と床がぶつかる音と、支えるものを失ったドアがしまる音が重なってドンッと大きな音が玄関にひびく。




「…いっ、たたたた…、なにするのよ鬼柳!」




私の上に覆い被さるように倒れている鬼柳をどかそうとするが、私のちからでは動かない…




「悪ぃ、…」




そう呟いた鬼柳の声は耳のすぐそばで聞こえて、そのくすぐったさに、頬に熱が集まるのがわかる。それを隠すために精一杯、鬼柳から離れようと試みる




「ちょっと、酔ってるの? …はやく、どいて、」
「悪ぃ…我慢できねぇ……」




私の言葉などなかったかのように、そう再び耳元で呟いたかと思うと、鬼柳の手がするすると、私の服の中にはいってきて、片手でいとも簡単にブラジャーのホックを外すと同時に服の上から胸を軽くかぶりつかれる。




「ちょっ…なに、してるの……だめ!…やめてっ…!」




私の制止も意味はなく、鬼柳の、手は下着の中に潜り込み、胸を愛撫し続ける…そして器用にも服の端を口でくわえて、服をめくる。そのせいでズレた下着から胸の頂点が露となると、満足そうにそこを見つめ、脇腹の方からゆっくり体のラインに沿うように上へ上へと体を舐め始めた。その間も胸を愛撫する手は止まらない




「ん…はぁ、……だめ、…きりゅ……」




舌のざらざらした感触が胸の頂点周辺までの道筋を伝う、そのなんとも言えない微弱な刺激に体をくねらせた時。鬼柳が胸を愛撫していた手を止め、顔をあげて私を見つめ笑った。




「…………ま、まさか…鬼柳、酔って…ないの…?」
「誰が酔ってるなんて言ったんだよ?」
「じゃ、じゃあ、まさか倒れたのもわざと…?」
「さぁな。」




勝ち誇ったような顔でそう言う鬼柳の言葉にに一瞬で、顔と頭に熱が集まってくるのがわかる…どいてよ、と少し乱暴に暴れてみるが、当然のごとく鬼柳はその場から動こうとはしない。




「どきなさい、ってば、この変態!」
「その変態に触られて感じてたやつは誰だよ?」
「う、うるさい!!」
「こんなもんじゃ、満足できないんだろ?」
「そ、そんなこと…!」
「じゃあ、これはなんだ?」




そういって、鬼柳が少し堅くなりつつあった胸の頂点を口の中へ含むと、舌をたくみに動かしてしゃぶりつくように舐めあげる。




「…ひゃっ、…やめ、…!」
「嫌じゃねーだろ? 本当はずっと俺にこんな風にされたかったんじゃないのか?」




一瞬、図星を付かれた私は言葉に詰まってしまう…その隙を鬼柳が見逃す筈もなく、再び満足げに微笑んでから唇を重ね合わせ、その隙間からするりと私の口の中へと舌を挿入する。思わず引っ込めた私の舌を追い詰めて、もう逃さないとでもいうように、激しく舌を絡ましてくる。




「ん…はぁ……んん、…」




自然と漏れてしまう甘い吐息に、脳がしびれる感覚を覚えながら、息がくるしくなるまで、鬼柳のディープキスは続いた。ゆっくり離れていった時には絡まりあった唾液が細い糸をつくり、すぐにプツリと切れた。



そして、鬼柳の手が太ももの内側へと伸ばされ、私は反射的に抵抗のしぐさを見せるが、先程の鬼柳の言葉を未だに否定できていない私は完全に鬼柳を拒むことはできず、それでもなにか言わなければと出た言葉はすきだらけのもので…




「こ、こんなとこで…いや、だよ」
「じゃあ、ここじゃなきゃ問題ないってことだな?」




むしろ、催促するような形になってしまい、なにも言えなくて黙っていると、覆い被さっていた鬼柳が私の上から退くと、太もも辺りと背中に手をかけ、私を横だきにして持ち上げた。




「へ、ちょ、…ちょっと…!」
「続きは、俺の部屋のベッドの上で満足するまでしてやるよ」





そういって、今度は軽く唇にキスを落とすと、また不敵な笑みを見せる。その笑顔にまんまと鬼柳の策中にはまってしまった自分に情けなさを感じつつも悪くないと思ってしまっている自分が居て。、悔しさ紛れに





「まっ、満足させてもらおうじゃないの!」





とだけ告げて、今度は私から鬼柳の唇に口づけた。













今夜、君は


一つの約束を破る








(罰としてこれから毎日夕食は一緒にたべること!)(そんなことくらいでいいのならお安い御用だ。)











(20130218)希咲

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